こんにちは。ソプラノの櫻井愛子です。
先日、ウィーン国立音楽大学主催のオペラ公演《ナクソス島のアリアドネ》が終演しました。本当は観客を入れて上演する予定でしたが、以前厳しい感染状況を鑑みて、無観客の収録という形になりました。
色々と困難に直面しながらも、この大所帯のプロジェクトをなんとか最後までやりきった、ある種クレイジーな稽古の日々で驚いたことを記録しておきたいと思います。
1. オーディション
2020年7月頃、「来年の春、《ナクソス島のアリアドネ》をやるけど、Echo(エヒョー、木霊の精)をやる気はないか」とオペラ科の先生からメールが届きました。《アリアドネ》の中で私のレパートリーになる役はEchoしかないことを確認し、オーディションを受けたいと返信しました。 オーディションは当時日本にいた私にとって有難いことに、通常対面のところ、録画での審査で行われることになっていました。シュトラウスの歌曲と、モーツァルトのオペラのアリアを収録するように言われ、自前の機器で撮ったデータをメールで送信しました。
2. 稽古 《ナクソス島のアリアドネ》をこのコロナの状況下で上演するというオペラ科の先生のアイデアは間違いなくクレイジーなものであると言えます。なぜならば、《アリアドネ》は数あるオペラの中でも、登場人物が多いからです(合唱がないことと、オーケストラの編成が小さいことだけが救い)。 私の役エヒョーは3人のニンフ役の中の一人で、常にアンサンブルで演奏します。しかも組が二つあるので、ニンフ以外の役と分けられて稽古時間が分けられていたにも関わらず既に正規歌手6人+カバー歌手2人という大所帯でした(しかもパーテーションはなかった)。こんなコロナの中アンサンブルにまでカバー歌手を置いて、更に人員を増やすなんて、信じられなかったのですが先生の決定だったので納得するしかありませんでした。 11月になるとウィーン自体が厳しいロックダウンに入り、複数人で集まることが出来なくなったので、私たちの稽古は一時ストップしました。 12月にまた再開した時は、1役1人まで、つまりMax3人までとなり、パーテーションも付きました。稽古時間も週に一回30分となりました。
2月からいつも学校が一か月の休暇に入るのですが、当時また感染状況が厳しくなっていて、通常の専攻の声楽レッスンの補講すら行われないことになっていました。それで、これはもう2月に稽古はやらないだろうな、と思っていたのですが、なぜか《アリアドネ》は特例として稽古をすることになりました(恐るべきオペラ科の先生のゴリ押し)。この時抗原迅速検査(Antigen Schunelltest、ウィーン市内の様々な場所で受けられる。ネット予約制)やPCRテストの陰性証明は、1週間に一回程度でOKという認識だったと思います。2月からは舞台演出の稽古だったので、大学の持ち物であるシェーンブルン宮殿劇場で稽古は行われました。ちなみに私個人は日本に一時帰国していて2月の稽古にまるまる参加できませんでした。
3. 手厚いサポーターたち
この美しいシェーンブルン宮殿劇場は前に書いた通り大学の所有物なのですが、プロの裏方の方々に舞台装置を操作していただきながら1か月ほど稽古できるのはとても贅沢なことだと思います。本番が近づくと照明さんやメイクさんも付きます。
実は《アリアドネ》にはテノールの難役と知られるバッカスという役があり、案の定ギリギリまで見つからず「学生で一体誰がやれるんだ...」と半ばあきれつつ状況を見守っていました。しかし本番3週間前ほどに、国際的な名オペラハウスで歌っているような方々を2人も捕まえてきました。あと地の台詞のみの執事長という役にはこれまたプロの役者の方が来てくださいました。皆様出演予定の公演がキャンセルされたりして時間が出来たため参加してくださったそうです。コロナが起こした奇跡とも言えます。
実は2月の休暇が明けた後、大変な困難が待ち受けていました...!次回も是非ご覧ください! 最期までご覧くださりありがとうございました!! 櫻井愛子
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