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「日本音楽コンクール体験記|準備・選曲・当日のリアル」パート1

こんにちは。ソプラノの櫻井愛子です。

4年前の2022年と2年前の2024年、日本音楽コンクール(以下日コン)の声楽(歌曲)部門に挑戦し、2024年の第93回に第二位と岩谷賞(聴衆賞)をいただきました。これまでご指導いただきました先生方、そしてコンクールでご共演いただいたピアニストの山中麻鈴様に今一度心より感謝申し上げます。

この記事では、選曲・準備・当日の様子など、実際に私が体験したことをご紹介します。今後日コンに挑戦される方に少しでもお役立ていただけたら幸いです。


2次審査発表時
2次審査発表時

日コンの特徴


■ 日本最高峰の登竜門 1932年創設。国内で最も歴史と権威のあるクラシック音楽コンクールの一つ。多くの著名演奏家を輩出しています。かなり雑に言うと「お笑いのM1のクラシック版」。

■ 部門が専門特化 年ごとに部門が入れ替わり制で実施されます。声楽はオペラ部門と歌曲部門が隔年で開催されます。

■ メディア露出が大きい 現在の主催は毎日新聞社とNHK。2次予選からはNHKのラジオで全国放送されます。また入賞者は新聞・演奏会・NHK放送などで注目されやすいです。

■ 入賞の意味 単なるコンクール受賞ではなく、日本のクラシック界での"信用"に直結する実績と見なされることが多いです。



こんな人には日コン出場がお勧め

・日本で指折りの猛者が集まるコンクールに挑戦したい ・全国的に少しでも知名度を上げたい ・プレッシャーに打ち勝つ経験を積みたい ・レパートリーを少しでも拡充したい

迷っている人への一言

会場全体が他のコンクールとは一線を画す独特の緊張感に包まれています。それはやはり日コンの格式の高さ、注目度の高さを物語っています。

日コンの大きな特色である「全国放送」というのは馬鹿にならず、色々な方から「聴いたよ/観たよ」というメッセージをいただきました。応援の声を感じる機会になります。

また本選まで進むと音楽関係者も多く聴きに来ます。良い演奏をすると同業者に良い印象を残し、次の仕事に繋がるご縁が出来るかもしれません。

私個人の理由

高校生の時に、歌曲部門で優勝された朴 瑛実さんの本選での《くちなし》の演奏を観てから、いつか出場してみたいと思っていました。

学生時代は自分にはまだ早いと思い、学生音コンに挑戦していました。留学を経て、歌曲部門ならば勝負できるかもしれないと思い、年齢制限(35歳)に引っかからないうちにと思いエントリーしました。

選曲の考え方

規定

課題曲は日本・ドイツ・フランス・イタリア・ロシア・英米の作曲家が6名ずつ選出されていて、その作曲家の作品から任意の曲を選曲。

・1次は課題曲2曲で7分以内、 ・2次は課題曲5曲のうち当日決定する1曲と、自由曲1曲で合わせて8分以内 ・本選はすべての作曲家の歌曲作品から選曲でき、曲数制限なしで15〜20分 ・すべての提出曲の中に最低1曲の日本歌曲を含み、さらに日本語以外に2カ国語以上の言語(原語)の歌曲を含むこと。

自分の強みを出せるキラーチューンが何曲も必要

ドイツ語と日本語は自信があったのですが、3言語というのが非常にネックで悩んだ挙句、えいや、とフランス語をぶちこみました。

2次は演奏する2曲のうち1曲は課題曲5曲の中から当日決まります。

基礎的な発声や発音、スタイルをしっかり理解して演奏できることが伝わる曲を選ぶことはとても大事だと思います。

それに加えて、どれが当たっても審査員に「おおっ」と思われるような曲を揃えなければいけません

何が「おおっ」を生むのかは分かりません。実際他の人には無い良さが出たら、技巧的でなくてもキャッチーになる可能性があります。

2回目のチャレンジの時に私が当日引いたのは「なやましき晩夏の日に」という、暗く低い曲でした。

2次の日コンの雰囲気は普通ではなく、私は何回も演奏した曲の歌詞を飛ばしそうなくらい緊張しました。そんな中、落ち着いた曲調の「なやましき」から歌い始められたのは演奏にとても良い影響を与えたと思います。



実際の曲目と選曲理由


やはりオペラ部門ではなく歌曲部門が別に設けられていることを鑑みると、声自体を聴かせることも大事ですが、詩の世界を如何に表現できるかというところも大事なので、詩の世界を存分に描けているかという曲自体の完成度も非常に重要だと思います。



1次課題曲

ヴォルフ「少年と蜜蜂」 選曲理由:ヴォルフの曲は歌うというより語る曲が多く、ドイツ語の捌きをアピールできると思いました。曲想が一辺倒でなく、色々な歌い方をアピールできるのも良い点。

ブラームス「私たちはそぞろ歩いた」 選曲理由:歌詞の雰囲気をそのまま描き出したかのような和声で、歌曲ならではのその繊細な色合いを感じられているよとアピールできると思いました。また、この曲むっちゃ良い曲ですよね!と伝えたいと思えるかも重要な選曲理由になります。


2次課題曲(抜粋。すみませんあと2曲は忘れました)

ヴォルフ「妖精の歌」 選曲理由:かなり喋る曲なのでドイツ語の捌きの強みが活かせると思いました。

ドビュッシー「現れ」 選曲理由:唯一のフランス語。派手だから聞き映えがすると思い選出。(ほとんど投げやり)

橋本國彦「なやましき晩夏の日に」 選曲理由: 基本的に低くて暗いがそういう曲が個人的に得意かもしれません。最後バーンと当時個人的に最も良いポジションに当てやすい音であった2点ト音で声を飛ばすポイントがあるのも良かったです。


2次自由曲

コルンゴルト「私にとってあなたとは」 選曲理由: とてもオペラティックな作品で声を聴かせる面もかなりあります。とにかくキャッチーで良い曲。一度聴いて「泣ける、むっちゃ良い曲じゃん」と思ってもらいやすい曲は上手く歌えると点がつきやすいのではないかと思っています。


本選

R. シュトラウス「脈打つ心」 選曲理由: 歌い慣れており一曲目はバーンと明るく元気に出たかったです。どちらかというと声を聴かせる曲。

J. ハウアー「ヒュペリオンの運命の歌」 選曲理由: 近現代を入れた方がプログラムに幅が出て良いアクセントになる気がして投入しました。無調に近いが短いので飽きさせずに聴かせられます。ドイツ語の捌きの良さが出る曲でもあります。

R. シュトラウス「さざめけ、愛らしいミルテよ」 選曲理由: 技巧的な面を見せたかったので。

W. リーム「鮮紅」 選曲理由: 近現代をもう一曲。かなりの緊張感がある曲でプログラムにスパイスを効かせたかったので。

山田耕筰「からたちの花」 選曲理由: キャッチー枠として絶対に本選でからたちの花を入れたかったのでプログラムづくりが少し難航しました。バッドコンディションでもある程度のクオリティで歌える曲と分かっていたので、歌い終える頃には自分自身が疲れ果てているであろうタイミングで、プログラムの最後に持ってきました。日本歌曲ならではのシンプルな美しさ、言葉の運びを表現できると思いました。


「安全策」か「挑戦」か

歌曲部門においては、そこまで技巧的な部分は必要ないのではないかと思います。勿論技術を見せる選曲は「おおっ」と思わせることが出来たら入れる価値はあります。しかし、完璧に歌わないと審査員によっては却って印象が落ちるかもしれません。楽しんで歌える範囲の選曲で問題ないと思います。



失敗しがちな選曲

*声に合わない曲 例えばソプラノやテノールの場合ですが、高音を出せば良いという訳ではないと思います。

*コンクール向きでない曲 最初に日コンを受けた後、シューベルトの《ガニュメート》を選んだことをとある先生にお伝えしたら、何故それを?!というリアクションをされました。私自身は基礎をアピールするのに良い曲だと思っていたので、そのリアクションに驚きました。そこで初めて、有名でかつ華やかな見せ場がない曲は日本のコンクールには不利かもしれないと気づきました…。


準備や当日については、また次のブログでお伝えしようと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました!

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©2022 AIKO SAKURAI

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